もう一度見たい舞台。
好きって訳ではないが、もう一度見たい舞台がある。
それは高校演劇大会の地方予選でおこなわれた、他校によるかぐや姫を脚色した芝居。あれはやばかった。
ヤバかった点を以下に列挙したい。
⚫業務用のゴミ箱からかぐや姫《らしき人物》がのっそり出てきて、声が小さくて何をいってるかわからない。
⚫生明かりで舞台全体を照らしているのにいきなり、中途半端な小さいボリュームで雷鳴が響く。
それに「う、うわぁー」と棒読みでリアクションする舞台上の数人。
⚫そのあと普通の会話中なのに、突然暗転しストロボ照明の点滅。
おそらく先程の雷鳴を表す照明。
この舞台では音速が光速を遥かに凌駕していた。
⚫主人公《らしき人物》が、舞台中央でたった一人ピンスポを当てられているなか
「えっと…あれ…かぐや姫…?…が…」とまさかの台詞ド忘れ。
⚫台詞ド忘れの時点でたぶん観客は呆れを通り越して応援してた。
(頑張って…思い出して…)
(むしろ暗転して終わろう…)
(もうかれこれ20分無言…)
いろんな意味で観客の心が一つになった舞台を生まれて初めて経験した。
会場の一体感だけ比較すれば、クイーンのライヴに匹敵する(諸説あり)
あの緊張感は、普通の舞台では味わえないと思う。
幕が降りた瞬間、観客全員が安堵したことだろう。
後日、出場校による全体の合評会で、その演劇部は別の高校の先生からマジギレされてた。
その合評会も含めて、もう一度見たい。
真似しようにもあんなんできひんやん普通。
マジギレした木口先生元気かな。
真面目な話、十年も前のことなのに、ここまでつぶさに思い出せるような舞台を作り上げたあの演劇部には本番中に神が降りていたのだろう。もしくは悪霊の神々が…
どんな劇でも思い出してもらえる劇はそれだけで価値があるという、個人的信条を打ち立てているので、あれはあれですごかったのだ。
これが、私がもう一度見たい舞台です。